世界の膜
破水する膜を破りて生まれ落つ赤子の叫びはキリエ・エレイソン 私というひとつの世界 膜に内包されて確かにある自己 誰でもが世界をひとつもっているたまごの白身より不確かに シグナルの降り注ぐ中抱きとめたひとつを糧に大人になりゆく 癒着した膜のせめぎあい時を経て同化してゆくそれが成長? シグナルが受容体に結合す世界は落ちる変化の滝へ 異物なら抱きしめたまま未来まで 分子となりて同化するほどの 意識とはわたしを包む八重の膜膿みながらなお新生しゆく しっかりと手をつないだら細胞よわたしが漏れぬよう皮膚となれ 湾内のゆるやかに寄せる波音に鼓動が溶けて迷子になって 君に会うのに必要なひとかけの勇気をどこかで落としたみたい さざなみに耳がおぼれて感覚は幽閉された正午(ひる)の一瞬 膜越しに五感を使いふれあえば似てるところを探す人たち やみくもにさし出した手がすれ違う日常こそが諍いのたまご 心から生まれた言葉飛び立って離れるほどに変態を遂げる 傷口は膜の中身をのぞく窓 水辺に吐露した孤独な影を グロリアの光も僕の心の底を照らせずに深海魚となる 孤独とは宇宙に浮かぶ星に似てみな交わらぬ無数の他人 揺れている 体か脳か水なのか混濁の中かなたまで 世界 ぱらぱらとはがれる垢にこそわれをおもう虚しさ液体のわれ 後ろ手で過去をひきずる闇の道 記憶の塵を撒き散らしつつ 浮遊塵 目に入りこみ病むときは鏡の破片か氷なんだよ 幾重にも隔てられおり生き物の鼓膜に届くゆがんだ声も 我らには膜があるから変化する 隔たりが生む憎悪の動機 湧き上がる憤怒も愛も波動上の鳥にたくして君に送ろう 耳襲う言葉の洪水ありし日は仰向けになり咀嚼して寝る わたしたち同じ地球にいるんだよね確認したいほど深い溝 深夜でも光になって鳥は飛ぶ君に言葉を伝えるために ガラスへと口づけるようのぞきこみ透きとおってた未来が曇る 破れては作られる膜持つ者の傷は進化の起爆剤なり 軽口の鋭く刺さる言葉には特異性もつ磁場のあるらし なんとなく群れなんとなく同化した仲間意識の世界にこもる 扉を閉じたここでしか正しくない規則だらけの偽善の世界 世界中がひきこもり影におびえて引き金を引くなんて青い空 ほとばしる鮮血らしき告白は鋼鉄の壁を腐食させゆく かなしみを浮力に変えて飛ぶ鳥は涙の日(ラクリモサ)より光になりけり 耳奥で響く歌に呼び覚まされた不可視の膜に包まれていく 肌の上1センチ浮き感覚を封じる膜に心が映る 国境もヒトの脳内にのみある仮想現実世界のカタチ こんなにも多様なものを内包しひとつの青い球である地球(テラ) ひとりでは生きられないと 傷ついて溶けあっていく異質なものら 脈動す未知なる膜に耳をあてその名を問えば孵化する歌よ 隔膜をそっとつまんでめくりあげきょうへ脱皮した明日のわれ いつかまた螺旋の軌道が交差する小宇宙たちでありたい別れ 手の甲に滑る涙の深くしずめる水面に鳥瞰図咲く もつれあう意図が奏でるアニュス・デイのカノンの果てに未来の岸辺 あふれでた39℃の涙滴をその掌に受けてほしいの 膜を張る無数の世界がひしめいてすべてをつつむオゾンのかいな 青空は残酷なほど硬質だ世界は敵だと感じる日には 変わりゆく世界ならまだ生きられる 私の名前は突然変異
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