ひだりの耳を
作られた春の徴がまぶしくて黄とキミドリのしましまの袖 みずたまりをのぞき込んだら雲が途切れて そこから、十万光年 透きとおる木々の向こうに見えざれば冬芽のために口笛を吹く だれもみな走る走る 鳩尾にからまる知恵の輪をむしりとり さっきからとってもしずか初体験キカイがみんな死んじゃったのね 視床より大気のふるえを見られればあかるく読める世界の秘密 この空は惑星というしゃれこうべのうちがわなのだ藍で染めたる クリオネが泳ぐ銀河の干潟にて指よりこぼれる砂の光よ 暮れなずむ表はまるでおまつりね小さな花火に浮き立つ影ら 片隅に落ちていた不思議な鍵はかたくなな口にカチリとはまり きれぎれに人影を見る曲がり角 つかみそこねた白昼夢の微分 飴色の白壁までも夕ぐれがつれさるだろうドアノブひねり この音はどれだけ遠くから来たか羽を休める鳥が降りたつ 新雪に吸われていった冷凍の雪の日の音再生しましょう 静けさはまっくら闇よりゼロに似て四次元的な孤島のドードー 七音のアルペジオさえくぐれたら僕のからくりを解いてください かざらずに白いすがたで立ちつくすここも誰かの地平線だろう 光化学スモッグのごとし 摩天楼の谷でけずれる悲鳴のけはい さみしいの?池にねむれる和音より一粒音を舌に乗せる子 夜が明けてひだりの耳をすましたらねむりの鍵が開く音がして 眇めても月のかたちがわからない目は退化させ子宮に頼る 母を呼ぶ幼子の声がゆきわたる耳に乱れた螺旋を穿ち 雨雲の切れる通りで享けるのはよごれた水とくすんだ虹だ くもりの日にさかさまの目を手に入れたわからなくても正しいことも 沈黙よ体液となれ言葉をついだグラスのふちから目をそらさない しじまから逃げる小鳥をたすけない鎮まりてゆく夜のエピローグ 芽を出してひらいた二葉いちめんに耳なら聞いてちいさく歌う 降れるだけ降りつくした日透明な大気がありのままをなだめる 五度上は天使のはだし音楽は空と地面とはざまの調和 東京のサウンドトラックをおぼえてる 一〇〇万の足音 途切れない電車
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